冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

夢日記(夢オチではない)

を見た。

 

夢の中で私は高校生だった。どうやら何かに追い立てられているようだった。それが何であったかは分からない。しかしその異物感は私を追い詰め,数日前まで滑らかだった日常の歯車にはざらざらした砂が混ざりこみ,私の心を日々やすりがけしていった。穏やかな日常はあっという間に崩壊し,すべてが怖くなり次第に授業に行けなくなっていった。そしてテストも受けられず,落第し,人知れず高校を退学した。高校を去るその日,誰も私を見送ってくれはしなかった。

 

ある日の教室。そこに私はいない。教師が名簿に目をやる。そこに私の名前はない。私は最初から存在しなかったかのように,記録から抹消されていた。そしてかつて友人だった彼らは私がいなくなっても,何一つ変わらない青春を謳歌していくのだった。

 

数年後,Facebookで友人が結婚したことを知った。友人は一流大学を出て一流企業に勤めていた。幸せいっぱいの満面の笑顔の投稿。順風満帆な人生。かたや私は無職でひきこもりだった。コメントに「おめでとう」と入力して,結局消した。せっかくのめでたい投稿に私からのコメントなんて不吉だろうな,と考えたからだ。そういうふうに卑屈に考えてしまう自分が情けなくて,涙が溢れて止まらなかった。

 

さらに数年が経ち,どこだろう,私は座敷牢のようなところにいた。光の差さない,じっとりとした地下。私はじっと黙って下を向いていた。ただただ下を向いていた……。

 

そんな夢を見た。嫌な汗をかき,久しぶりに悪夢を見たなという実感があった。時計を見ると時刻はまだ朝の4時半。しかしすっかり目が醒めてしまった。それが今日のことだった。

 

なんでこの夢を覚えているかというと,スマートフォンのメモ帳に残っていたからだ。私はちょこちょこ夢を記録してログを残している。というわけで今日は夢のことを書いていく。DreamというよりはNightmareのほうの。

 

いままでで一番ショッキングだった夢のことはまだしっかりと憶えている。今年の1月くらいに見た夢だが,あまりにショッキングだったので起きてすぐノートに書き散らかした。そのおかげで鮮明に記憶に残っており,いまでもしばしば蘇ってくる夢だ。

 

夢の中で私は王女だった。豪奢なドレスを着てたくさんの家来を傅かせる王女様。舞台はふしぎの国のアリスのようなおとぎの国(そういう設定だったのだから笑わないでほしい)。ある日,王様が何者かにさらわれていなくなる。王女様こと私は,父・王様を探す旅に出る。まあ言ってしまえばよくある冒険譚,のはずだった。

 

しかし割と序盤で王女様は殺される。敵に斧でずたずたにされる。それはそうだろう,取るものも取りあえずお城の外に丸腰で出てきたのだから。RPGの勇者だって最初っからもうちょっとマトモな装備をしている。そこで物語はバッドエンドなのかと思いきや,王女様は生きていた。どうやら王女様は不死だったのだった。物語が進むにつれ,刀で切り裂かれたり棍棒で叩き潰されたり銃で吹き飛ばされたりと次第にヒトの原型を失ってゆくが,王女様は死なない。死ねない。しかし痛みは感じるので,泣くように痛い。喉にこみ上げる血に咽び泣き,全身を刺し貫く痛みに泣き叫びながら王様を探し求める。豪奢なドレスは薄汚い血みどろの布片と化し,見目麗しい御姿は醜い肉塊に変わり果てた。その泣き声は世にもおぞましく,むしろ鳴き声と呼ぶにふさわしい。もう誰もこのバケモノを王女様だとは認識できない。

 

そして血塗られ呪われた長い旅路の果てに,ようやく王女様は王様を見つけることができた。廃工場のような場所に監禁されていた王様に向かって,一心不乱に突き進む。敵の槍に貫かれようとも,弓矢に射抜かれようとも,血へどを吐きながら手を伸ばす。しかし愛すべき王様との再開は,彼の絶叫と絶望と拒絶によって迎えられた。その絶対的な拒絶からすべてを理解したバケモノは,その時初めてあきらめた。そして誰にも祝福されることなく,深い絶望の中でその呪われた生を終えた。誰も救われず,誰も救わない物語……。

 

と,目が醒める。

自分で言うのもなんだけど何だこの夢。こわいわ。沙耶の唄要素もあり,HELLSING要素もあり,まあ自分が感じてきた色々なもので構成されているのはわかるが,史上最低の悪夢だった。せめて最後は王様が抱きしめてその胸の中で死んでいく,とかあるだろう……。

 

精神的に追い詰められている時にはやはり悪夢を見やすいのだと思う。さっきの夢を見たのは今年の1月。仕事も忙しく,以前にブログに書いたことのある上司・S氏ともうまくいかず,転職やら何やらで相当憔悴しきっていた時期だった。あの頃の絶望的な日々があったからこそ,いまの平穏な日々はある。

 

◯S氏とのことは以前に記事にしたことがある

trush-key.hatenablog.com

 

しかし今日はなんで悪夢を見たのかよくわからない。なぜって,いまは割と人生が楽しいから。これまでの人生で,こんなに情緒が安定している時期はいままでなかった。いままでは,いつだって不安があった。いつだって誰かにおびやかされていた(ように感じていた)。誰かに傷けられないように予防線を張るのに必死になっていた。楽しいことをしていても,ふと冷静になると憂鬱な気持ちが襲ってきた。でもいまは不安がない。確かにジェットコースターのような激しさはないけど,観覧車のように安定した毎日がある。そしてそんな安定した心地よさにふと穴が穿たれて,悪夢がドロドロと浸入してきたような感覚がある。悪夢の内容はどうでもよくて,「人生が楽しい(はずな)のに悪夢を見てしまった」という事実にショックを受けていてるのだ。

 

だから今回も,楽しいことが小さな穴をキッカケにまた終わってしまうのかなと感じてしまったりしている。「蟻の穴から堤も崩れる」ということわざは言い得て妙なものだ。

 

うーん,夢オチだったら良かったんだが,文字通りオチもない。

 

終わり。