冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

ディスコミュニケーションあるいは言葉のドッジボール

い先日,あまりにも強烈な異文化コミュニケーションを体験してしまったのでここに纏めておこう。言葉のキャッチボールならぬ言葉のドッジボール

 

私はありがたいことにサークルの先輩(新郎)の結婚式に招待していただき,二次会から参加してきた。おととい,土曜日のことだ。久しぶりに会うサークルの人もおり旧交を温めた……と言いたいところだが,どちらかと言えばただただ周りの雰囲気に圧倒されていた。いや,気圧されていたと言って良いだろう。”力”に。

 

私は,否私達は知らなかった。結婚式の二次会というのは,己の力のみを信じ日々その研鑽に励むクッソ強いマッチョな”本物のオス”たちがビール瓶をグビグビと一気飲みしながらFワードを連呼し叫び散らかす,力と力がぶつかり合う猛り狂った力比べの場だということを。

 

かたや招待されていたサークルのメンバーは男女ともに落ち着いた(オブラートに5重くらいに包んだクッソやさしい表現)人が多いため,正直完全に浮いていた。新郎新婦入場の時に拍手をする以外は,ひたすら本物のオス同士が角突き合わせて力比べしているのを口を空けて見てるしかなかった。ツーブロックのゴリラって本当にいるんだ……と驚嘆してしまった。

 

本物のオス「ウェーイ!!!いけいけいけ!!!(ビール瓶をグビグビと飲む)」

先輩「こういうひとたちって普段どこにいるんだろ……動物園?(ヒソヒソ)」

本物のオス「おまえここでナンパすんなよ!!!童貞かよ!!!!(肩パン)」

私「陰と陽,決して交わらないもの,科学と魔術が交差しちゃってる感じですね……(ヒソヒソ)」

 

アレここ高架下か?というくらい本物のオスの声量がデカすぎる(本物のオスなので当然である)ので,サークルの人と会話するのも一苦労であった(サークルの人はみんな声が小さい)。おかげでここ数か月で一番大きい声を出したので喉が痛くなった。まあ大体想像がつく通り,私達はさほどお酒も飲めない(本物のオスではないので当然である)ので,とりあえず色々食べていた。すると時折背後からすごい大声で新郎を野次る声が聞こえてくるので国会か!?となったりする。ちなみにその人は周りが誰も乗ってこないのに一人で延々とディスり続けるメンタルお化けだった。もしくはラッパー。

 

あとこれは今回得た気付きだが,ヒトの反応には3ステップある。数字が大きいほど反応が大きい。以下は私の勝手な命名だ。

①サイレント(無音)

②ハンドクラップ(拍手)

③シャウティング(叫)

 

そして本物のオスが②の状態の時,私達は①の状態。本物のオスが③の状態の時,私達は②の状態にあることが多い。経験がある人もいるのではないだろうか。陽キャの方々がワーッとかウェーイと叫んでいる時,陰キャの方々はただただ拍手をしていなかっただろうか。この3ステップにおいて,常に陰キャ陽キャのひとつ下の段階にいる。私はそういう光景を何度も見たことがある。結局陽キャ陰キャは魂のステージが違うのだ。魂の在り方が違う。どう取り繕ってもメッキは簡単に剥がれる。

 

二次会が終わる頃には延々と本物のオスの力比べを見せつけられてすっかり疲れていたが,ここでまさかの異文化コミュニケーションが発生した。本物のオスは帰ろうとする私(初対面)にいきなり通せんぼをしてきたのだ。私が本物のオスかどうか試しに来たのか?未開の地のイニシエーションか?私の中で一瞬のうちに色んな感情がグルグルと渦巻き,スッと消えた。すると「なんですか?」というまっ平らな声が出た。本物のオスは訳のわからない言語を発して道を空けてくれた。私は異文化に言葉が通じたことにいたく感動した。

 

外で他の人を待っていると,サークルの女性にめちゃくちゃ本物のオスたちが群がってきた。またしても異文化コミュニケーション。正直にすごいな,と思ったのは,人の無言に対して「何も言わないならオッケーっしょ!!!」と振る舞う彼らのマインドだ。そして一方的に「こいつの彼女は~」とか「キャバクラで~」とか「俺はN総研って会社なんですけど,知ってます?」とかありがたい情報を与えてくれる。なんて強いマインドなんだろう。一方私達は無言に対して「あっ……お気を悪くさせてしまってごめんなさい」と撤退してしまう。本物のオスのそのクッソポジティブなマインドは正直見習いたいなと思ったのだ。そして言いたいことだけ言って「銀座の相席屋行こーぜ!!!」と彼ら本物のオスは本物っぽい台詞とともにエスカレーターに乗って行ってしまった。たぶん銀座に相席屋ねーぞ。

 

エンカウントを避けてエレベーターで降りて夜景を見ようとしていると,二度あることは三度あるとばかりにまたしても本物のオスたちが出現。私達は無視を決め込んだ。目を合わせるとポケモンみたいにデレデレデレとBGMが鳴って戦闘に入ってしまうからだ。しかし彼らのクッソポジティブなマインドは砕けない。タタタッとこちらに駆け寄ってくる。普通に恐ろしかった。三度目の異文化コミュニケーション。ここは駅前留学NOVAか?

 

開口一番「これから三次会で一緒に銀座行きませんか?」。私はもう耐えられなかったので顔を背けて夜景を眺めていた。めちゃくちゃいい笑顔で笑ってしまっていたからだ。当方に迎撃の用意ありとばかりにこちらの誰もが拒絶のめっちゃ分厚いATフィールドを張っているにもかかわらず,容易にアンチATフィールドを展開してきたのだ。

 

「明日仕事なんで……」

「明日日曜っすよ!!!」

「忙しいんで……」

「何の仕事ナンスカ!?」

「はひ……」

 

これには驚いた。こいつバーサーカーじゃん。狂戦士じゃん。勝てないわ。だって手にしたもん全部宝具にしちゃうんだもんな。

 

長々と書いてきたが,本物のオスのマインドには見習うべきものがあるのは確かだ。相手がどう思っていようが口に出さないんだったら関係ねえ!!俺はこういう男なんだ!!!というその図太さは,掛け値なしに羨ましいなと思った。人生もさぞ楽しかろう。私がそうなれるとは到底思えないけれども。あと誤解しないでいただきたいのは,私はとても楽しかったということだ。めちゃくちゃ笑った。異文化に触れ合うことって楽しいことなので。なかなか蛮族(バルバロイ)の方々と触れ合う機会もないし。

 

写真は会場近くのお台場で見た夜景。文字通りレインボーなレインボーブリッジをバックに見る冬の花火も綺麗であった。

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タイトルは植芝理一さんの漫画『ディスコミュニケーション』から。

絵の描き込みが激しく,素晴らしい漫画。同作者の『夢使い』『謎の彼女X』もオススメです。

夢使い(1) (アフタヌーンコミックス)
 

 

終わり。