冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

三百代言の跳梁跋扈

ょっと油断していたら前回の記事から3週間経ってしまっていたのでなにか書かねばとふと思い立った。

 

このブログ,特にテーマがあるわけでも筆力があるわけでもないので完全に気まぐれブログとなっている。書き方としては,思ったこと・感じたことをすぐTwitterに書くので,後々それを見返してブログにまとめるというフローとストックの感じである。またTwitterに書くだけで投稿しないものも多いので,下書きには常に数十個のツイートが溜まっている。思考の残滓であり,残り香である。

 

さて,昼頃にテレビを見ていたら力士のことを「お相撲さん」と呼んでいて,面白いなと思った。 確かに私も力士を「お相撲さん」と呼ぶことがあるが,あたり前のことながら「相撲」というのは競技名であって,他の競技では選手のことを「おサッカーさん」「お野球さん」と呼ぶことはない。「お」を付けていることからもやや敬意と親しみを込めた呼び方なのだろう。また,相撲には「力士」「関取」「お相撲さん」と呼び名が多くて面白い。やはり歴史が長い競技ならではというところであろうか。

 

職業とその呼び名については,特に差別用語に直結する場合もあるため出版社やマスコミの人は他の業界よりも考える機会は多いのではないだろうか。そしてそれにあたっては共同通信社が出している『記者ハンドブック』をしばしば参照する。

記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集

記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集

 

このなかに「差別語、不快用語」という項目があり,「~屋」という言葉は「差別語、不快用語」とされている。そのため「床屋」「ブン屋」「土建屋」「政治屋」などは推奨されていない(「魚屋」「八百屋」などについては後述)。なお「ブン屋」は新聞屋つまり新聞記者,「土建屋」は「土方」ともいう(そっちのほうが駄目っぽい)土木関係の事業者,「政治屋」は権力闘争に執着する政治家を貶めて言うときに用いられた言葉であり,そもそも「床屋」以外はかなり時代がかった言い回しである。「床屋」は「理髪店」などと呼ぶのが推奨されている。

 

ところでこの話題はインターネットで調べても定期的に盛り上がっていて,「『魚屋』も『八百屋』も『花屋』も『パン屋』も駄目だとは嘆かわしい!言葉狩りだ!俺たちはそんな誰が決めたのかわからん基準には従わないぞ!」みたいな文脈で紹介されることがほとんどである。しかし前述の『記者ハンドブック』を読むとこうも書いてある。

愛称的な八百屋さん、魚屋さんは構わない。

 

要は文脈の問題で,「あいつは八百屋だからヨ」とか「魚屋の分際でエラソーな口聞くんじゃねーヨ」みたいな場合にはやはり「差別語、不快用語」に該当するということであろう。一方「愛称的な」というのはまた主観的な要素もあり線引が難しいが,「行きつけの八百屋さん」「商店街の魚屋さん」などは許容なのであろうと思われる。確かにそちらのほうが親しみやすいし,現実として市民感覚として普通にそう呼んでいる。

 

ちなみに「魚屋」は「鮮魚店」,「八百屋」は「青果店」,「花屋」は「生花店青果店と読みが同じで紛らわしい)」と呼ぶのが推奨されているのだが,「パン屋」はなんと言い換えるのだろう。調べてみたが「パン店」や「ベーカリー」だそうだ。かえってよくわからなくなってしまっている。

 

私の仕事で考えると,出版社のことを「出版屋」とは言わない(版元と言ったりはする)し編集者を指すそういう言葉もないと思う。周辺業界で言えば印刷会社のことを「印刷屋」と呼ぶのは聞いたことがある。そして「いらすとや」はどうなんだろう……。

www.irasutoya.com

 

職業で言えばかつてタクシーの運転手のことを「雲助(”うんすけ”ではなく”くもすけ”なのだそうだ)」,街娼のことを「立ちんぼ/パンスケ/パンパン/四足」,弁護士を「三百代言」,警察官を「ポリ公/マッポ/サツ」なんて呼んだのも同じだろうか。昔は弁護士資格のないのに弁護活動を行っていた者が多く「三百代言の跳梁跋扈」なんて言われたりしたものらしく,なにやら東方の曲名っぽい。

dic.nicovideo.jp

ところで弁護士といえば,「弁士」という言葉は弁護士を指すのかと思っていたがぜんぜん違うらしく,無声映画を解説する「活動弁士」のことを指すのだそうだ。以前に一回だけ活動弁士の方の解説を聞いたことがあるが,大迫力で面白かった。

www.waseda.jp

 

職業の呼び名について話を戻すと,そもそも職業というよりも「社会人」という言葉もかなり謎である。就活では「学生と社会人の違いは?」みたいな偏差値2の質問がよく出てくる(エラソーに踏ん反り返っている面接官に聞いたらなんと答えるのだろうか?)が,そもそも「社会人」という言葉がなんなのかわからない。私はこの言葉が嫌いなので「勤め人」や「ビジネスパーソン」という言葉を使うようにしている。そもそも学生だって社会の一員であるという点で「社会人」だ。ちなみに『大辞林第三版』によると以下の定義がなされている。③の定義に基づき,学生も「社会人」に含まれて然るべきだと思う。

しゃかいじん【社会人】

① 学校や家庭などの保護から自立して、実社会で生活する人。 「卒業して-となる」
② (スポーツなどで)プロや学生ではなく、企業に籍を置いていること。
③ 社会を構成している一人の人間。

 

 さて,ついさっき知ったのだが,昨日のオールスター感謝祭小林礼奈さんという方が放送禁止用語を言ってしまったと話題になっていた。タイムリー。

 

それこそ「八百屋さん」とか言ってしまったのかな?と思って調べたら,予想以上にただの下ネタだったのでさもありなん……となった。記事のオチがこんなものでいいのだろうか……と思うが,まあ仕方あるまい。

 

終わり。