冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

断章(I)

みなさん、はじめまして。

わたしの趣味は映画鑑賞と読書とカメラです。

前の学校ではテニス部でした。

好きな食べ物はラーメンです。

座右の銘は「一期一会」です。

よろしくおねがいします。

はい、転校したばかりで慣れないこともあると思うけど、みなさん仲良くしてあげてくださいね。

誰か質問あるひとはいますか?

ひとつ、いいでしょうか。

教えてください、あなたは、誰ですか。

趣味はわかりました。前の学校での部活もわかりました。好きな食べ物もわかりました。座右の銘もわかりました。

ところで、あなたは、誰ですか。

わたしは誰?

ごう、という大きな音がした。真っ暗な世界で、わたしは、ひとりぽっちで立ち尽くしていた。

質問者も、先生も、他の生徒も、誰も彼もいなくなっていた。

教室さえなくなっていた。

わたしは、ぼくは、あたしは、俺は、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

誰なんでしょう?

わからない。

真っ暗な世界で、たったひとりぽっちのわたしは。

誰なんでしょう?

そのとき、涙がひとしずく、ぽたりと落ちた。

そのおかげで、いつもわたしはわたしに立ち戻ることができる。

そこは真っ暗な世界などではなく、教室。

そこではひとりぽっちなどではなく、にこやかな生徒と先生がわたしを迎えている。

ただひとり、質問者の姿だけが見えない。

わたしはわたしだ。ぼくも、あたしも、俺も。

わたしは、わたしでしかないのだ。

だから、わたしはわたしのまま、歩きつづけるのだ。

古びた病院。病室の窓の外から、カラスだけがわたしを見つめていた。ら、カラスだけがわたしを見つめていた。