ぼくたちは何だかすべてフェスにしてしまうね
ここ数日,友人らと東北地方へドライブに行っていた。
まず早朝に着いた大きなダム湖では遊覧船がいた。営業時間前で乗客も誰もいないにもかかわらず「こちらに見えます雄大な景色は……」というアナウンスが聞こえてきたので,リハーサルでもやっていたのだろうか。アナウンスで録音音声ではなく人が身振り手振りを交えて話しているとなんだか嬉しくなる。そのなかでも名物になっている,USJのターミネーターの綾小路麗華さん的な文化は貴重だ。
近くの店でイワナの塩焼きが売っていたが,そのすぐ横の水槽では己の運命をまだ知らないイワナがすいすい泳いでいた。
そういえば川魚の代表格・イワナはイワナのなかでも川に残ったものを指し,海に出たものはアメマスと呼ばれて巨大化するのだそうだ。祖国を捨てて外に飛び出したやつがビックになった,みたいなサクセスストーリーを感じて面白い。
レジャー施設を避けてやたらと湖とか山とか神社に行きたがるメンバーなので,そうこうしているうちにまた別の湖に着く。
聞いたことない湖だったし,正直誰もいないと思っていた……ところが。
ドーン!!という効果音が聞こえてきそうなくらいに車がめっちゃ並んでいる。
思わず「フェスか!?」と叫んでしまった。
これはフェスについての知識がないので,人気のない所にいきなり大量の人が発生するとすべてフェスだと思ってしまうためである。実際はフェスでも何でもなく,そこそこ知られたキャンプ地だったらしい。多くの家族連れが「ここをキャンプ地とする!」と宣言し(たかどうかは知らないが)テントを張っていた。砂浜のようなものもあり,子どもが遊泳していた。
予想外の展開におののきながら真顔で水際でピチャピチャやり,すたこらと撤退した。
となりには「妖精美術館」なる施設があり,気になったのでHPを見てみたら一文目から「森に囲まれた湖・沼沢湖のほとりに、世界中の妖精が集まっています。」とポエティックかつ力強い文言が踊っていた。なにしろ世界中の妖精が集まっているので妖精が好きにはイチオシのスポットだ。たぶん。
山形県米沢で米沢牛のステーキを食べ,なんとしても一度行ってみたかった銀山温泉に向かう。川が流れており,その両岸には旅館や食事処が立ち並んでいる。日が落ちてガス燈や旅館の明かりが灯り,川に反射しているのは幻想的で,大正ロマンを感じさせた。
えっへん我々は銀山温泉で宿泊しますよ,みたいな顔をして銀山温泉街を練り歩いていたが,実際宿をとったのはそこから車で30分の別の温泉地なので,足湯に浸かっておとなしく宿に帰った。ちなみに足湯はクソほど熱かったが「はぁ~まったく熱くないな!」と嘯いて周囲に死ぬほどどうでもいいマウントを取りながら入浴した。
「元気食堂」という名前のお店で「元気丼」という海鮮丼を食べたので,異常に元気になってしまった。
鮮魚市場ではサメが売っていた。アオザメ。つぶらな瞳で可愛らしい。見ているだけでサメ肌を感じる。ステーキや煮付けにすると美味らしいが,フカヒレや肝油ドロップ以外ではサメを食べたことがないので食べてみたいものだ。
宮城県の南の方のやたらギザギザした牡鹿半島の最南端のほうに「金華山」という最果て感のある島がある。人口6人らしい。
なにかと最果て感のあるものが好きなので,とりあえず向かってみる。山道。山道に次ぐ山道。山道すぎる。酔ってきた。しんどい。なんか靄が出てきて怖い。サイレントヒルか。ここは静岡ではなく宮城なのだが……
世界の果てを求めて,無限に続く山道を越え,見えてきたものは……!!!
―――最果てだった。
雑な感じで終わる。
タイトルは岡崎京子氏の物語集『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』から。