冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

また銭湯に行ける日を願って

日,早稲田にある松の湯という銭湯に行ってきた。早稲田大学から高田馬場まで歩いて行く途中の老舗の銭湯である。7月末に施設の老朽化と経営陣の高齢者のため閉店。70年近い歴史に幕を閉じる。

www.waseda.jp

www.youtube.com

 

昨日行った時も以前と何も変わっていなかった。最後に行ったのは恐らく3年位前だったと思う。番台さんの前にソファとテレビと新聞が置いてあり,牛乳が売られている。昔ながらの銭湯だ。ご多分に漏れず,大相撲の中継が流れていた。時間帯や訪れる年齢層の問題なのか,だいたい銭湯に行くと大相撲と笑点が流れている。

 

さて,たしか松の湯に初めて行ったのは大学4年生くらいの頃だった。ずっと存在は知っていたけれども,それまではあまり銭湯に行く習慣がなかったのだ。

 

「松の湯行かね?」ある日,大学の同級生のOが誘ってくれた。どうやらタオルは銭湯内で貸し出してくれるらしい。サウナも使えて1000円だそうだ。ちょっと気になるので後輩も合わせて4人で行ってみることにした。

 

大学から歩いて5分ほど。早稲田通りに面した銭湯は地元の人で賑わっていた。昔ながらの番台さんに1000円払ってタオルとサウナ室専用の鍵をもらう。この鍵はフックみたいな引っ掛けるところがついたプラスチックの板だ。ガラガラガラと入り口の引き戸を開けると,Oはそれまでもよく来ていたらしく,「あっ,あの人今日もいる」なんて言っていた。

 

バイブラ湯やうたせ湯,小さめの浴場に入った後,Oは「じゃあサウナに行くか!」と言った。それまでサウナに積極的に入ったことはなかった気がする。

 

サウナはMAX5人くらいしか入れないような小さめなサイズ。テレビが点いているわけでもないシンプルな作りで比較的温度も高い。数分入っていると汗だくになってきた。

 

手持ち無沙汰になり,Oや後輩に話しかけようとすると窘められる。彼ら曰く,以前サウナでおしゃべりをしていたら,背中に立派な入れ墨を入れたヤクザっぽい人に怒られた経験があるのだそうだ。たしかに目の前には立派な入れ墨を入れたおじさんがいる。僕たちはしんと静かに座って汗をかいていた。

 

暑さの限界に達したのでサウナから出る。すぐ横には水風呂がある。Oらは「水風呂がむしろ本番!」みたいなことを言い出してバシャバシャと水を浴びだす。僕はほとんど水風呂に入ったことがなかったので不安になる。

 

Oらは先に水風呂に入っており「早く~!」などと言っている。僕は恐る恐る足を水風呂に浸してみる。つめたっ。つめたすぎる。あんまり入る気がしない。一気に入っちゃえば大丈夫!なんて言われたけれども,どうにもそんな気は一向にしてこない。

 

結局その時は肩まで全身入ることはできずに,下半身だけ入ってまた温かいオフロに入ったりしていた。今考えると一気に入っちゃえば思いの外問題はなく,本当に彼らが言ったとおりなのだが,その時の僕にはそれは理解できなかった。

 

しかし回数を重ねていくうちに,水風呂の良さが次第に分かるようになってきた。折しも,世間的に「サウナー」という言葉が出てきたり,サウナブームが起きていた時期でもあった。次第に僕はオフロにハマり,いろんなオフロを訪れた。メインはサウナ,さらに言えば水風呂。

 

巣鴨には意外とオフロがたくさんあった。スーパー銭湯の「ニュー椿」,天然温泉の「SAKURA」,カプセルホテルの「グランパーク」。特にグランパークは安かったし近かったこともあり,ジムに行った帰りなどに通い詰めた。サウナはそこそこ広いし,水風呂も清潔で広い。

 

そのうち,サウナを評価する際の観点がわかるようになってきた。①テレビがあるかないか。僕的にはどっちでもいい。というか昔はサウナで手持ち無沙汰だったのでテレビはあった方がいいなと思っていたが,最近は目を閉じて瞑想していることが多いのでむしろ邪魔に思えてきた。②椅子に敷いてあるタオルがきちんと取り替えられているかどうか。これは大事だ。僕の理想は持ち込むタオルを肩にかけて壁面にもたれかかるようにして目を閉じることだが,敷いてあるタオルが他人の汗で濡れているとそこに敷いて座るようになってしまうのだ。特にスーパー銭湯では,サウナの入り口にビート板のような物が置いてあってそれに座ることもできて嬉しい。また,タオルが2枚もらえるところも良い。③水風呂がしっかり循環していること。貯めているだけの水風呂など不潔で論外である。

 

また,最も大事なことはサウナに入って水風呂に入って,その後に休めるような椅子があることだ。これがサウナのQOLを左右すると言っても過言ではないだろう。プールサイドにあるような簡素な椅子で構わないのだ。それがあるだけでそこで座って瞑想することができる。こうやって書いていると行きたくなってくる。

 

郷に引っ越してからは近くにサウナがなかったこともあり回数が減ってしまった。それからは友人と誘い合わせて池袋や新宿やさまざまなオフロに行くという感じで,普段遣いできるような銭湯が近所になかった。東大のお膝元でありながら銭湯がないのは一体どういうことなんだ。そもそも文京区には銭湯がずいぶん少ない。そういえば実家のすぐ横にも立派な破風造りの銭湯があったのだが,かれこれ10年以上前に閉店してしまった。さらに最近は新型コロナウイルス感染症の影響でサウナには行きづらくなってしまった。サウナなどは密の最たるものではあるので,仕方ないだろう。

 

www.sentou-bunkyo.com

 

松の湯がなくなると早稲田生が気軽に行ける銭湯がなくなってしまうのが悔やまれる。またふらっと銭湯に行ける日が来ることを思い,新型コロナウイルス感染症の早い収束を願っている。

 

終わり。