冷たい水の中をきみと歩いていく

平坦な戦場で生き延びること

英会話スクールで新海誠の話をさせるな

回の記事にも書いたとおり,夏休みに海外で英語がぜんぜんしゃべれなくて悔しかったので,最近は英会話スクールに通い始めてきちんと英語を勉強している。ちゃんと有言実行している!

 

通っているスクールはクラスという概念がなく講師も生徒も決まっていないため,行く度に違うメンバーで新鮮味がある。先週行ったときは講師1人と生徒2人(自分含め)でディスカッションをしたりした。

 

前半は自己紹介がてら学校や仕事の説明だったり夏休みの予定を話したりなんてして,恙なく進行していた。私は「このへんの医療系出版社で働いているんだ」と話したが,「具体的には何をやっているの?」と聞かれると“原稿”をどうやって伝えればいいのかわからず苦労した。ちなみに原稿はmanuscriptというのだそうだ。夏休みにスペインとポルトガルに行った話をしたら,「それらの国の文化で大きい違いってどんなのがあるの?」と聞かれてとっさに「公共交通機関がスペインではMetro,ポルトガルではTramがメインになっている」ともっともらしいことをでっち上げた。まあ,あながち完全に間違っているわけではあるまい。

 

もうひとりの生徒は高校生。テニス部の主将で,なんなら普通に私より英語が上手い。なにかと相槌に「yeah, yeah」と連呼するところはちょっとイラッとしたが,すごく人あたりのよい青年だった。しかも大学までエスカレーターらしく,目下どこの学部に行こうか悩み中なんだとか。彼は17歳で私より10歳も下,年をとったなと嫌でも実感させられる。夏休みはバイトしたり好きなアーティストのライブに行ったりして楽しむんだ,なんて話を聞いていた。私が「会社に入ると夏休みは5日くらいしかないんだ」と言って彼が「え~短すぎる!」と驚く,みたいな社会人と学生の使い古されたしょうもないトークをしているうちに授業は後半に差し掛かり,そこで事件は起きた。

 

日本文化の話をしていたときにその講師が「いや~,僕は日本のアニメはそこまで知らないんだけど,新海誠のアニメはすごく良いね!」と言い出したのだった。おいおいマジか,と私は身構える。これは絶対に『天気の子』と『君の名は。』の話が来るぞ。絶対に日本語でも話したくない話題が来るぞ。セカイ系”をどうやって説明するのか,ゼロ年代がいかにしてそれに直面し乗り越えてきたのか,そして東日本大震災セカイ系にどんな影響を与えてきたのか,新海誠の初期作にしてセカイ系の代表作『ほしのこえ』と最新作『天気の子』との間にどれほどの距離があったか……。色々なことが頭の中で渦巻いた。もちろんすべて日本語で。早口で。いやこれ伝えるのは難しいぞ。ていうかなんで英会話スクールでそんなこと考えなくちゃいけないんだ。

 

案の定講師は「『天気の子』と『君の名は。』はどう違ったんだと思う?」なんて地獄みたいな質問をぶん投げてきたので,なんだこいつと思いながらも「『君の名は。』は観ていないのでわからないが『天気の子』は好きじゃなかった」と伝えた。そうしたら「マジで!?『君の名は。』は最高だったから帰ったらすぐ観なさい」からの「なんで『天気の子』は好きじゃなかったの?」という質問が返ってきた。めんどくせぇ。おとなしく「『天気の子』は最高だ!RADWIMPSの音楽が素晴らしい!背景も美しい!感動のラストに全米が泣いた」とか適当に嘘をついておけばよかった。しかも好きじゃない理由を伝えるとなるとセカイ系だの主人公の罪の意識の軽さだのをどうやって英語で伝えたらいいかもわからず,上述したような色々なことが頭の中で渦巻き続け,悩んだ挙げ句「Uh…I don't like it. But, I can't understand  why I don't like it.」と最低な答えしか出てこなかった。当然,そっかーみたいな微妙な反応が返ってきた。

 

一方,もうひとりの高校生は「『天気の子』はちょっと話が大きかった気がする」と言い出した。私はといえば「それがセカイ系だよ!!!コテコテのゼロ年代を令和になってまだやってんだよあの監督は!!!!」という心の声を抑えながら彼の意見を拝聴していた。しかし「でもやっぱりRADWIMPSの音楽は素晴らしいし,背景も美しいし,全米号泣必至の感動のラストだった」みたいなことをキラキラした目で言い出したので,私はついため息をついた。10歳離れると感性も大きくずれてくるんだろうか,なんて思ったりしているうちに講師が「とりあえずキミは『君の名は。』を観て次回までにレポートを提出すること:)」みたいな小笑いを取りに来て,授業のまとめにかかり始めた。

 

授業が終わり,帰ろうとすると彼が塾長の先生になにか話している。ちょいと聞いていると「あの講師の英語が早くて何言ってるかよくわからなかった」と言っていた。えっ,お前あんな「ええ,ええ,全部わかってますよ」みたいな顔して相槌打ってたのによくわかってなかったのかよ!なんて驚きながら,帰路についた。ちなみに英会話スクールはうちから徒歩3分の好アクセスである。

 

長々と書いてきたが,英会話スクールはとても楽しいので今後も続けていくつもりだ。家ではABCニュースを聞いたりNHK基礎英語を聞いたり『マイリトルポニー』を英語で観たりと英語に触れる機会をできるだけ増やして耳を慣らしている。なお最近はもっぱら『マイリトルポニー』のことばかり考えているので,この話はいつかしようと思う。

dic.nicovideo.jp

 

終わり。